なぜオークション研究がノーベル賞を受賞したのか?(第1回|全5回)安田洋祐

なぜオークション研究がノーベル賞を受賞したのか?

2020年度のノーベル経済学賞(10月12日公表)は、米スタンフォード大学に在籍する経済理論の大家、ポール・ミルグロム(Paul Milgrom)教授とロバート・ウィルソン(Robert Wilson)教授に贈られました。

その授賞理由は

“improvements to auction theory and inventions of new auction formats”

「オークション理論の改良と新しいオークション形式の発明」

に対して、というもの。理論を構築するだけでも大業績なのですが、現実に成果をあげるオークション形式を発明・デザインした、という点がとりわけ特徴的です。

少し脱線すると、2人はそれぞれ、オークション理論だけでなく、経済理論やゲーム理論、情報の経済学、産業組織論などに関して幅広い研究を行っており、様々な分野で革新的な貢献を残しています。たとえば、ビジネススクールでの講義をもとに書かれたミルグロム教授の『組織の経済学』[1](ジョン・ロバーツ教授との共著)をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

ミルグロム教授の『組織の経済学』


[1]https://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100000762 

以下では、ノーベル賞公式ウェブサイトに掲載された資料のうち、受賞者たちの業績をまとめた全7ページの「Popular science background」[2]の拙訳をご紹介します。数式や数理モデルを一切用いずに、非専門家でも理解できるようにまとめた分かりやすい記事です。ぜひご活用頂ければ幸いです。(訳出に際して、自動翻訳サービス「DeepL翻訳」[3]を使用し、誤訳や不自然な箇所を私が修正しました。原文でイタリックで強調されている部分は太字にしています。)

[2] https://www.nobelprize.org/uploads/2020/09/popular-economicsciencesprize2020.pdf

[3] https://www.deepl.com/translator

毎週木曜20時
The Night School

講師:安田洋祐

プリンストン大学
大学院経済学博士課程修了(Ph.D.)。

東京大学経済学部では大内兵衛賞を受賞し卒業生総代。朝日新聞論壇委員。

主な業績に『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ』(編著 NTT出版)、“Resolving Conflicting Preferences in School Choice: The Boston Mechanism Reconsidered”(with Abdulkadiroğlu and Che) American Economic Review, “Oligopolistic Equilibrium and Financial Constraints”(with Bevia and Corchon) RAND Journal of Economicsなど

Twitter: @yagena

完璧なオークションを求めて|The quest for the perfect auction

毎日、オークションは、買い手と売り手の間で天文学的な価値を分配しています。今年の受賞者であるポール・ミルグロムロバート・ウィルソンは、オークションの理論を改良するとともに新しいオークション形式を発明し、世界中の売り手、買い手、納税者たちに利益をもたらしました。

オークションには長い歴史があります。古代ローマでは、お金の貸し手が、借金の支払いができない借り手から没収した資産を売るためにオークションを利用していました。世界最古のオークションハウスであるStockholms Auktionsverkは、1674年に設立されました。

オークションと聞くと、伝統的な農地競売や高級美術品のオークションを思い浮かべるかもしれませんが、インターネットで何かを売ったり、不動産業者を介して不動産を購入するような今日的な取引もオークションだと考えられます。オークションの結果は、納税者であり、また市民でもある私たちにとっても非常に重要です。家庭のごみ収集を管理している会社が、公共調達で最低価格をつけることで業務を落札している場合も少なくありません。地域の電力オークションで毎日決定される電気料金は、家庭の暖房費に影響を与えます。私たちの携帯電話の繋がりやすさは、通信事業者が電波オークションで取得した電波の周波数帯域に依存しています。現在では、どの国も国債を発行する際に競売にかけて財源調達するようになりました。欧州連合(EU)の排出権取引の目的は、地球温暖化の緩和です。

このように、オークションはあらゆるレベルで私たち全員に影響を与えています。しかも、ますます普遍的に使われるようになり、複雑化しています。今年の受賞者が大きな貢献をしたのは、まさにこの分野なのです。彼らは、オークションがどのように機能するのか、なぜ入札者が特定の方法で行動するのかを明らかにしただけでなく、彼らの理論的な発見を応用して、商品やサービスを販売するための全く新しいオークションの形式を発明しました。これらの新しいオークション形式は、世界中に広く普及しています。

オークション理論

受賞者の貢献を理解するためには、オークション理論についてもう少し知っておく必要があります。オークション(または調達)の結果は3つの要因に左右されます。第一は、オークションのルール、つまり形式です。入札はオープン(公開)なのかクローズド(封印)なのか? 参加者はオークションに何回入札することができるのか? 落札者はどのような価格を支払うのか ー 自分の入札額か、2番目に高い入札か? 2つ目の要素は、オークションで取引されるアイテムに関連しています。入札者ごとに異なる価値を持っているのか、それとも同じ様にアイテムを評価しているのか? 3番目の要因は、不確実性に関するものです。異なる入札者は、アイテムの価値についてどのような情報を持っているのか?

オークション理論を使うことで、これらの3つの要因がどのように入札者の戦略的行動を左右し、オークションの結果を導くのかを説明できます。この理論はまた、できる限り多くの価値を生み出すためにオークションを設計する方法を示すこともできます。どちらも、複数の相互に関連したアイテムが同時に競売にかけられるとき、特に難しくなります。今年の経済学賞受賞者は、オーダーメイドの新しいオークション形式を作成することで、オークション理論をより実践的に適用できるようにしました。

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