なぜオークション研究がノーベル賞を受賞したのか?(第2回|全5回)安田洋祐

オークションの種類の違い

世界中のオークションハウスでは、通常、イギリス式オークション[English auction](競り上げ)を利用して個々の品物を販売しています。ここでは、競売人は低価格から始め、その後、徐々に高い価格を提案します。参加者はすべての入札を見ることができ、より高い入札をするかどうかを選択することができます。最高額の入札をした人が落札し、入札した金額を支払います。しかし、他のオークションでは全く異なるルールもあります。オランダ式オークション[Dutch auction](競り下げ)では、非常に高い価格からスタートし、落札されるまで徐々に金額を下げていきます。

イギリス式とオランダ式のオークションでは、入札は公開[open]されており、参加者全員が他の人の入札を見ることができます。しかし、他のタイプのオークションでは、入札は非公開[closed]です。例えば、公共調達では、入札者はしばしば封印された入札を行い、調達者は特定の品質要件が満たされていることを条件に、最低価格でサービスを提供することを約束するサプライヤーを選択します。いくつかのオークションでは、最終的な価格は最高入札(第一価格オークション[first-price auction])ですが、落札者が二番目に高い入札(第二価格オークション[second-price auction])を支払う他の形式もあります。

どのオークション形式がベストなのでしょうか? これは結果だけでなく、何をもって「ベスト」とするのかにもよります。民間の売り手は通常、売り上げの最大化に最も関心を持っています。公的な売り手は、社会全体に最も長期的な利益をもたらす入札者に商品を販売する、などのより広い目的を持っています。ベストなオークションの探究は、長い間経済学者を悩ませてきたトリッキーな問題なのです。

オークション分析の難しさは、各入札者の最適な入札戦略が、他の参加者がどのように入札すると考えているかに依存するという点です。入札者の中には、アイテムの価値が他の人よりも高いと考える人、低いと考える人がいるか? これらの異なる評価は、一部の入札者が商品の特性や価値についてより良い情報を持っていることを反映しているのか? 入札者が協力して入札行動を操作すること(入札談合)で、最終的な落札額を抑えることができるか?

毎週木曜20時
The Night School

講師:安田洋祐

プリンストン大学
大学院経済学博士課程修了(Ph.D.)。

東京大学経済学部では大内兵衛賞を受賞し卒業生総代。朝日新聞論壇委員。

主な業績に『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ』(編著 NTT出版)、“Resolving Conflicting Preferences in School Choice: The Boston Mechanism Reconsidered”(with Abdulkadiroğlu and Che) American Economic Review, “Oligopolistic Equilibrium and Financial Constraints”(with Bevia and Corchon) RAND Journal of Economicsなど

Twitter: @yagena

私的価値

1996年に経済学賞を受賞したウィリアム・ヴィクリーは、1960年代初頭にオークション理論を確立しました。彼は、入札者が競売にかけられている商品やサービスに対して私的価値[private value]を持っている、という特別なケースを分析しました。これは、入札者の価値が互いに完全に独立していることを意味します。例えば、有名人(ノーベル賞受賞者など)との夕食のためのチャリティー・オークションなどが該当します。このような夕食会にいくら支払うかは主観的なものであり、あなた自身の価値は他の入札者が夕食会をどう評価するかによって影響を受けることはありません。では、このタイプのオークションではどのように入札すべきでしょうか? あなたは夕食会に対する自分自身の価値よりも高い金額を入札するべきではありません。では、低価格で落札できることを期待して、低い金額を入札をするべきでしょうか?

ヴィクリーは、すべての入札者が合理的でリスク中立であることを条件に、最もよく知られているオークション形式 ー イギリス式やオランダ式など ー は、売り手に同じ期待収益をもたらすことを示しました。

共通価値

完全な私的価値というのは極端なケースです。オークションで取引される多くのアイテム(有価証券、不動産、採掘権など)は、価値の一部がすべての潜在的な入札者にとって等しく、共通価値[common value]の側面が非常に強いです。実際に入札者は、アイテムの特徴に関して異なる量の私的情報[private information]を持っています。

具体的な例を挙げてみましょう。あなたがダイヤモンドのディーラーであり、あなたも他のディーラーと同様に、未加工ダイヤモンドの入札を考えていると想像してください。あなたがいくらまで支払うべきかは、数量と品質で決まるカットダイヤモンドの再販価格だけに依存します。この共通価値である再販価格について、専門知識や経験、ダイヤモンドを吟味した時間などによって、ディーラーたちは異なる意見を持っています。あなたが他のすべての入札者の見積もりを知ることができれば、より正確に評価をすることができるでしょうが、各入札者は自分の情報をライバルたちには秘密にしておきたいと考えています。

共通価値を持つオークションの入札者は、他の参加者が真の価値についてより正確な情報を持っているというリスクに直面します。これは、「勝者の呪い」[winner’s curse]と呼ばれる、実際のオークションで勝者が払い過ぎてしまうという、よく知られた現象につながります。あなたがオークションでダイヤモンドを落札したとしましょう。これは、他の入札者があなたよりもダイヤモンドを低く評価していることを意味するため、最も楽観的であるあなたは損をしてしまうかもしれません。

ロバート・ウィルソンは、共通価値のオークションを分析するためのフレームワークを最初に生み出し、そのような状況下で入札者がどのように振る舞うかを説明しました。1960年代から1970年代にかけての3本の古典的な論文では、真の価値が不確実な場合における第一価格オークションの最適な入札戦略を分析しています。参加者は、払い過ぎを避け勝者の呪いに陥らないために、共通価値の最善な推定値よりも低い価格で入札します。彼の分析によると、不確実性が高いほど入札者はより慎重になり、最終的な落札価格も低くなります。最後にウィルソンは、勝者の呪いによって引き起こされる問題は、一部の入札者が他の入札者よりも優れた情報を持っている場合には、さらに大きくなることも示しました。情報面で不利な立場にある入札者が、より低い金額を入札したり、オークションへの参加自体を完全に断念したりすることになるからです。