なぜオークション研究がノーベル賞を受賞したのか?(第3回|全5回)安田洋祐

私的価値と共通価値の混在

ほとんどのオークションでは、入札者はアイテムに対して私的価値と共通価値の両方を持っています。アパートや一軒家の競売への入札を考えているとしましょう。その場合、あなたの支払い意欲は、あなたの私的価値(その物件の状態や間取り、立地をどのくらい評価するか)と、あなたの見積もった共通価値(将来的にいくらで売れるか)によって決まります。天然ガスの採掘権を入札するエネルギー会社は、ガスの貯留層の大きさ(共通価値)と、ガスを採取するためのコスト(コストは各企業の技術力に依存するため、私的価値)の両方を気にしています。国債の入札に参加する銀行も、将来の市場金利(共通価値)と国債の購入を希望する顧客の数(私的価値)をともに考慮しています。私的価値と共通価値をどちらも含むようなオークションの入札行動を分析することは、ヴィックリーとウィルソンがそれぞれ扱った片方のみの特殊なケースよりもさらに厄介な問題であることが判明しました。最終的にこの問題を解決したのは、1980年頃に発表された数少ない関連論文の著者の一人であるポール・ミルグロムでした。

ミルグロムの分析 ー 一部はロバート・ウェーバーとの共同研究 ー には、オークションについての全く新しい重要な洞察が含まれています。その一つは、オークション形式の違いによって、勝者の呪いにどれだけうまく対処できるかという点です。イギリス式オークションでは、競売人は低い価格から始めて、それを徐々に上げていきます。このとき、他の入札者がどの価格で脱落するかを観察することで、各入札者は自分の評価に関する情報を間接的に得ることができます。競売からおりずに留まっている入札者たちは、オークション開始時よりも多くの情報を得ることができるため、見積価格を下回る入札をすることが少なくなります。一方、オランダ式オークションでは、競売人が高値からスタートして値下げを行っていき、誰かが買いたいと思った瞬間に入札が終了してしまうため、どの入札者も新たな情報は得られません。以上から、オランダ式オークションでは、勝者の呪いの問題がイギリス式オークションよりも深刻になり、(自分が“呪われる”ことを避けるべく、各人が入札額をより引き下げるため)最終的な落札価格も低くなります。
この結果は、次のような一般的な原理([linkage principle])を反映しています:オークション形式は、入札額と入札者たちの私的情報との間の連関が強いほど、より高い収益をもたらす。したがって、売り手は入札が始まる前に、参加者にアイテムの価値について可能な限り多くの情報を提供することに関心があります。例えば住宅の売主は、入札者が入札開始前に(独立した)専門家の評価にアクセスできるようにすることで、より高い販売価格を期待することができます。

デジタルホールディングスとの共創プロジェクト開始

今後、両社はさまざまな局面で協力して、企業や国の課題解決を支援していきます。

EDIのコンサルテーション事業は、今年になって本格始動しました。すでに取引市場設計、チェーン店のプライシング、データマーケティング、レーティング方式の設計をはじめ、多くの案件に携わっています。

今回のDTFA協業を通じて、事業を一気に拡大し、経済学のビジネス活用を社会に浸透させます。

より良いオークションの実践

ミルグロムとウィルソンは、オークションの基礎理論に貢献しただけではありません。彼らはまた、既存のオークション形式を使用できない複雑な状況にも対応できる、新しくてより良いオークションの形式を発明しました。最もよく知られている貢献は、米国当局が初めて通信事業者に無線周波数を販売したときに使われた、彼ら自身の設計によるオークションです。

携帯電話での通話、インターネットでの支払い、ビデオ会議など、無線通信を可能にする無線周波数は、消費者、企業、社会にとって大きな価値を持つ希少資源です。これらの周波数は政府が所有していますが、民間の事業者の方がより効率的に利用できることが少なくありません。そのため、当局は何らかの方法でこれらの事業者に周波数帯を使用する免許を割り当てる必要があります。これは当初、「美人コンテスト」と呼ばれるプロセスによって行われ、個々の企業はなぜライバル企業ではなく自分たちが免許を受けるべきなのかを論証しなければなりませんでした。この仕組みの下で、通信会社やメディア企業がロビー活動に巨額の資金を費やすことになります。しかしながら、政府が企業から得られる収益は限られていました。

1990年代、携帯電話市場の拡大に伴い、米国の監督官庁である連邦通信委員会(FCC)は、美人コンテストがもはや通用しないことに気付きました。携帯電話会社の数が急速に拡大し、FCCは事実上、無線周波数の免許申請を捌くことができなくなっていたのです。FCCからの圧力を受け、米国議会は周波数帯を割り当てるための抽選を許めることになります。このようにして、美人コンテストは抽選による免許のランダムな割り当てに取って代わられますが、こちらも同様に限られた収入しか政府にはもたらしませんでした。

携帯電話事業者も抽選方式には不満を持っていました。抽選は地方レベルで行われていたため、全国でサービス展開している携帯電話事業者が、地域ごとに異なる周波数帯を使う非連続なネットワークを手に入れる、という状況に陥ったからです。抽選の後でこうした事業者は、自分たちの間で周波数を売買しようとしたため、大規模な周波数帯免許の転売市場が出現することになりました。

他方で、米国の累積債務が増加の一途をたどっていたため、これ以上免許を実質的に無料で配布し続けることが政治的に困難になってきました。周波数帯免許の市場価値は数十億ドルにのぼりますが、その価値は米国財務省ではなく、免許の転売市場に現れた投機家たちの手に渡ったのです。(そして、この機会損失は最終的には納税者が負担することになります)最終的に、1993年に周波数帯をオークションで分配することが決定されました。