なぜオークション研究がノーベル賞を受賞したのか?(第4回|全5回)安田洋祐

新しいオークション形式

ここで新たな問題が生まれます。それは、効率的な周波数帯の割り当てを実現しつつ、納税者に最大限の利益をもたらすオークションをどのように設計するかという問題です。周波数帯には、私的価値と共通価値の両方の要素があるため、この問題を解決するのは非常に困難であることが判明しました。さらに、ある地域における特定の周波数帯の価値は、その事業者が他にどの周波数帯を所有するかにも依存するのです。

全国的なモバイルネットワークを構築したいと考えている事業者がいるとしましょう。スウェーデンの規制当局が、北部のラップランドから始まり、南部のスコーネまで、国中の周波数帯を一つずつ競売にかけたとします。ここで、ラップランドの免許の価値は、事業者が後の入札でスコーネまでのライセンスを購入できるかどうか、及びその価格に依存します。事業者は今後の入札の結果を知らないため、ラップランドの免許にいくら支払うべきかを知ることはほぼ不可能です。さらに、中古市場で高値で転売することを目的に、投機的な買い手がこの事業者がスコーネで必要とする周波数帯を購入しようとするかもしれません。不確実性が大きいため、事業者は入札金額を低く抑えるか、オークションから完全に撤退して中古市場での取引を待つことになるでしょう。

上のスウェーデンの例は、一般的に生じる問題を示唆しています。この問題を回避するために、米国で最初に行われた周波数オークションでは、一度にすべての地域の電波周波数帯を割り当てなければなりませんでした。また、同時に多くの入札者を扱わなければなりませんでした。これらの問題に取り組むために、ミルグロムとウィルソンは、一部プレストン・マカフィーと共同で、全く新しいオークション形式である「同時複数ラウンド(競り上げ)オークション」[Simultaneous Multiple Round Auction: SMRA]を発明しました。このオークションでは、すべてのアイテム(地理的に異なる地域の周波数帯)を同時に出品します。低価格からはじめて、繰り返し入札を可能にすることで、このオークションは不確実性と勝者の呪いによって引き起こされる問題を軽減することができます。1994年7月にFCCが最初にSMRAを使用したときには、計47ラウンドの入札を経て、10個の免許が合計6億1700万ドルで落札されましたが、これはアメリカ政府がそれまで実質的に事業者に無料で割り当てていたものでした。

SMRAを使用した最初の周波数オークションは、大成功だと評価されました。そして、多くの国(フィンランド、インド、カナダ、ノルウェー、ポーランド、スペイン、英国、スウェーデン、ドイツを含む)が同じ方式を採用しました。この方式を用いたFCCの競売だけでも、1994年~2014年の20年間で 1200億ドル以上の収益をもたらし、世界的には、2000億ドル以上の収益を上げました。SMRAは、電気や天然ガスの販売など、他の事例でも活用されています。
その後も、計算機科学者、数学者、行動科学者と協力して、オークションの理論家たちは新しいオークション形式を改良してきました。彼らはまた、入札者たちによる価格の操作や談合の機会を減らすことにも挑みました。ミルグロムは、事業者が個々の免許ではなく、周波数の「パッケージ」に入札できるように改良したオークション(組み合わせクロック式オークション[Combinatorial Clock Auction])の設計者の一人です。このタイプのオークションでは、販売する周波数が増えるにつれて可能なパッケージの数が急速に増加するため、かなりの計算能力を必要とします。ミルグロムは、2つのラウンドからなる新しいオークション形式(インセンティブ・オークション[Incentive Auction])の開発も主導しています。第1ラウンドでは、現在の免許保有者から周波数帯を買い上げ、こうして集めた周波数帯を第2ラウンドで、より効率的に活用できる他の事業者に売却する仕組みです。

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基礎研究が新発明につながった

ミルグロムとウィルソンによる初期の画期的なオークション研究は、基礎研究とみなされるべきです。彼らはゲーム理論を用いて、異なる参加者たちがそれぞれ異なる情報を入手しているときに、どのように戦略的に行動するかを分析したいと考えていました。戦略的行動を生み出す舞台となるオークションは、明確なルールによって記述することができるため、彼らの研究対象として自然な領域だったのです。ところが、オークションは次第に実用的な重要性を持つようになり、1990年代半ば以降は、周波数帯、電力、天然資源などの複雑な公共資産の割り当てにますます活用されるようになりました。オークション理論から得られた基礎的な知見は、現実の複雑な課題を克服する新しいオークション形式を構築するための土台を提供しました。

こうして生み出された様々な新しいオークション形式は、基礎研究が社会に利益をもたらす発明を生み出すことができる、という美しい例の一つです。今回の例が並外れているのは、理論と実践を発展させた人たちが同一人物であるという点です。このように、オークションに関する本年度の受賞者たちの画期的な研究は、買い手、売り手、そして社会全体に大きな利益をもたらしたのです。

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以上が、「Popular science background: The quest for the perfect auction」[1]の拙訳になります。最終回となる次回(第5回)では、ノーベル賞やオークション研究に関するお役立ち情報について簡単にまとめてみたいと思います。

[1] https://www.nobelprize.org/uploads/2020/09/popular-economicsciencesprize2020.pdf