2021-08-01

コラム

「はじめてのNFT(前篇)」坂井豊貴

1.ビットコインより難しい

ツイッター創業者ジャック・ドーシーの最初のツイートがNFTとなって3億円で売れた。アーティストBeepleのNFT作品「The First 5000days」には75億円の値が付いた。そのようなニュースがきっかけとなり、最近NFTについて多くの取材を受けています。NFTとはNon-fungible tokenの頭文字で、ブロックチェーンで発行された「本物の証明書」です。私に取材の声がかかるのは、仮想通貨のファンだと公言していること、GaudiyでNFTのオークション設計を担当したことが理由だと思います。取材元にはテレビの情報バラエティまであり、世間の注目を感じます。

 ところが、いろんな人にNFTの話をしても、意外と伝わりにくいのです。正直ビットコインよりずっと伝わりにくい。私の伝え方のせいではないと思います。ビットコインは意外と分かってもらいやすいんです。藩札や宋銭のように非国家の通貨は歴史的にあったとか、デジタル版の黄金(デジタルゴールド)との説明は、それなりに多くの人が受け入れてくれます。

 NFTはそうはいきません。ビットコインより多くの説明が求められます。説明しても「ハァ?」「なんでそんなもんに価値があるの?」みたいな顔をされがちです。多くの説明が要るものは普及しにくい。NFT普及のハードルは当初私が思っていたより高いのかもしれません。それでもNFTは面白いし、普及してほしい。そして、必ずこれから普及していくものだし、無縁でいられる人は少ない。そこでこれから私なりに、NFTについて書きまとめていこうと思います。

2.ついにデジタル財に希少性が成立。画像そのものは(上のように)コピーできても

ビットコインは現在、時価総額が70兆円ほどあります。金がだいたい1000兆円ほどですから、価格の乱高下にともなう時価総額の変動あれども、数十兆円とは人類有数の資産クラスです。これができているのは、経済的にはビットコインに市場ニーズがあるからですが、技術的には「ニセ札を作れない」からです。1BTCをコピーして2BTCにはできません。

 一般に、デジタル情報はいくらでも無料でコピーできます。スマホで撮った写真、作成した文章、プログラムだって無料でコピーできます。原本とコピーは完全に同じものです。同じものが無数にあると、希少性は成立しません。プロの写真家が撮った見事な写真でも、無数のコピーがネット上にあれば、それに高い値段を払って買おうという人はいないでしょう。

 ところが原本とコピーに区別がつくと話は変わります。この区別を可能にするのがNFTで、それは原本が「本物の一枚」である保証として働きます。「本物の一枚」には希少性が出ますが、「無数のコピー」には出ません。希少な前者のみが高価になりえます。だからジャック・ドーシーのツイートに3億円が付くわけです。

 これがそのジャック・ドーシーのツイート画像です。誰でもこの画像はコピーできるどころか、そもそもツイッターで彼のツイートをさかのぼれば誰でも見られます。

 ただし我われは、このツイートの「所有者」ではありません。モナリザの写真は美術の教科書に載っていますが、それを見る学生はモナリザの所有者ではないのと同様です。このツイートのNFTの所有者は、それを他者に売れます。このNFTに価値を見出すコレクターや投資家は、高くとも買おうとします。NFTには資産性があるわけです。もともと絵や彫刻といった美術品はコレクターや投資家がよく買うものです。それにNFTというジャンルが加わっただけのことです。

 なお、NFTと所有権うんうんの法的な話は、ここではスキップしています。現行の所有権は、デジタル財を念頭に作られておらず、まだ権利保護が不十分または不明なことが多いのです。ただし、これはあくまで私の感覚ですが、あまりこの点は気にしなくてよいです。いずれ適切にまとまるだろうし、そもそもそんなこと気にしないでも楽しめるからです。「所有権があいまいだから~」のように、適当に理由を付けてNFTを遠ざけるのはお勧めしません。

 NFTを売買すると、元アドレスから、新アドレスへの移転がブロックチェーンに刻まれます。これができるのは元アドレスから新アドレスへの移転を意思決定できる、元アドレスの管理者だけです。所有権うんぬん以前に、これができるというプログラムされた権限は、元アドレス管理者のみが発動できるものです。

 ブロックチェーンには「アドレスA→アドレスB→アドレスC」のように、過去の移転履歴が記録されています。これまで誰の手を経て自分の手元に来たかが、現在の所有者である自分のみならず、他人からもすべて見えます。「ああ、あれは孫正義が手放した有名なNFTだ」のようなことが分かると、孫さんリスペクトの経営者はそれを欲しがるかもしれません。

 古い盆栽には過去の所有者の履歴が記録されているものがあり、それは取引価格に大きく影響します。来歴を物語としてまとうわけです。人間は物語に価値を感じる生き物ですから、魅力ある来歴のNFTは今後、高い価格が付くでしょう。

 ジャック・ドーシーのNFTは高すぎるでしょうか。おそらくそんなことはありません。それはツイッターという「デジタル万葉集の原本の1ページ目」です。同時代に生きているとその価値は分かりにくいかもしれませんが、私は十年後には数十億円になっていると予想します。現代美術と同様で、物語を理解すると価値が分かるわけです。自分の作成したNFTに高値を付けるためには、時代の文脈を理解したり作ったりして、「それがなぜ優れているのか」の物語を築く必要があるでしょう。